HBVジェノタイプ(B型肝炎ウイルスの遺伝子型)のお話
B型肝炎給付金請求では,一次感染者の要件を満たすために,厚生労働省の「B型肝炎訴訟の手引き」要件5で,「原告のB型肝炎ウイルスがジェノタイプAeでないこと」が必要とされています。
ジェノタイプAeでないことの証明は,成人期の感染でないことの証明ということなのですが,HBVジェノタイプについて私がこれまでに経験したり,勉強したことを以下にまとめました。
ジェノタイプは全部でA,B,C,D,E,G,F,Hの8つの型にわかれています。
世界中にB型肝炎ウイルスは存在しますが地域によりジェノタイプが異なり,
・ジェノタイプA Ae:欧米 Aa:アジア・アフリカ
・ジェノタイプB Ba:アジア,Bj:日本
・ジェノタイプC Cs:東南アジア, Ce:東アジア
・ジェノタイプD 南欧,エジプト,インド
・ジェノタイプE 西アフリカ
・ジェノタイプF,H 中南米
・ジェノタイプG フランス,ドイツ,北米
などの地理的な分布がみられます。
日本におけるHBVキャリアはジェノタイプCが85%と最も多く,次にジェノタイプBが12%,ジェノタイプAが1.7%,ジェノタイプDは0.4%とのことです。
それぞれのタイプにより臨床経過が異なることも明らかになってきています。
この中で,B型肝炎給付金の関係で問題になるのはジェノタイプAeなのですが,日本において,初感染後の急性肝炎の慢性化例がみられるようになりその多くがジェノタイプAeとのことです。またジェノタイプAは,成人への感染で10%がキャリア化するといわれています。
1995年(平成7年)以降,Aeの割合が年々増加しているとのことで,都市部での性交渉による感染が主体との調査報告があります。(国立感染症研究所,http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/319/dj3191.html)
したがって,給付金請求においてジェノタイプAeであることが判明すると,平成7年以前にこのタイプのHBVに感染することはきわめて稀であることから,成人期の感染であると推定され,給付金の対象から外れてしまうのです。
ジェノタイプDというのは日本では珍しいタイプなのですが,当事務所でもこれまでに1例だけ経験があります。ジェノタイプDという検査結果をみたときには,これでも予防接種による幼少期の感染と認めてもらえるのか,ちょっとびっくりしたのですが,調べてみると以下のような調査結果が発表されており,依頼者の方の居住歴とも合致したのでほっとしたことがあります。
日本におけるジェノタイプDの起源について貴重な歴史的な研究があります。日露戦争で負傷したロシア人捕虜の療養の目的で松山に専門病院が開設されましたが,捕虜といっても自由な行動が許されていて温泉にもはいっていたとのことで,松山市に広まったジェノタイプDのロシア人の傷兵が起源であろうと推測されているとのことです。そして分子疫学解析により1940年代に拡散が開始され,急速な拡散は1970年代と算定されました。(弁護士澤田有紀)